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「どうしてそこにいるの?」
声が聞こえる。
「そこはわたしの場所だったはず」
どことも知れぬ場所で、ひとりの少女が泣いている。どうやらこの声は彼女に向けられたものらしい。
「どうしてそこにいるの? あなたがそこにいたら、わたしは、どこへ行けばいいの」
「ここは私の場所」少女は嗚咽の合間にか細く答える。「ここにいられなかったら、私は、どこへ行けばいいの」
「どこにも行けないとして、それで、誰が気にするの?もともとどこにも居なかったくせに」
「ここに居た」少女は乱暴に目を拭う。「どうしてそんなことを言うの。私はずっとここに居たの」
「嘘。言ったでしょう。そこは私の場所。あなたはいなかったのよ」
「嘘よ」
「それだけじゃない。あなた自身のものなんて何もない。その顔も、身体も、声も、心も、全部私のものだったじゃない」
「違う……だって、彼は呼んでくれたもの。私の名前を」
「私の名前よ」
「私の顔を見て呼んでくれたもの」
「私の顔よ」
「違う、私よ。私の目を見て、私の名前を」
「まだわからないの。その目も名前も私のものなの。あなたのものじゃない」
「――髪も」
「……」
「――そう。髪に触ってくれた。綺麗な色だって言ってくれた。そうよ……それは私よあなたじゃない」
「そう……なら、まだ私の場所を返すつもりはないのね」
「……彼と約束したの」
「あなたが本当のあなたじゃないって知ったら、彼はどう思うかしらね。そのときにまた会いましょう」
「ねえ、聞いてる?私、負けなかったよ。あなたの声が聞こえたから。あなたが私の髪を誉めてくれたから。だから私、負けなかったよ。だから……だから……答えてよ………」
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