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村長は車椅子に深く座り直すと、コーヒーを一口飲み大きく溜め息をついた。
近頃は白髪頭も薄くなりつつある。
「コーエンが犯人だったというのか?」
「間違いありません。あれはコーエンでした」
テーブルを挟んで対峙する男たちは暗い表情で答えた。
村の中でも人一倍働き者のコーエンの農場は一際大きく、耕す野菜や豚などもどこよりも大きく成長していた。
数日前、あの雨の夜からコーエンは体調を崩し家でずっと寝ていた。
昨日も一昨日もコーエンの姿を見たものはいない。唯一見ているとすればその妻カワラだけだろう。
カワラの姿は毎日目撃されている。寝込む夫の代わりに畑を耕し、豚の世話をしていた。
買い物の最中に夫の様態が悪いと漏らしていたのも知っている。
するとカワラは知らないのだろうか。
「もう一度確認するが……コーエンの首筋にあったのだな?ふたつの小さな穿点が」
男たちは頷くと恐ろしそうに、
「この村はどうなるんだ」
と漏らした。
「この地の一族は百年以上も前に滅びておる。奴らが蘇ったなどとは考えたくもないわ」
村長は膝の上の分厚い本のページをぱらぱらめくると、途中で手を止め字を指でなぞり始めた。
「記録書によるとこの地を支配していた一族の名はギュスケ・アムラム。第二次聖魔対戦の折りこの地へ住み着いたと記されておる。
ギュスケを滅ぼしたのは旅のハンターで、記録によると近隣の村人全員の目前で日光により公開処刑されとる」
「では別の一族の仕業だと?」
渋い表情で尋ねるガトに村長は頷くと、
「日光を浴び灰と化したのだ。一族とてまさか灰から蘇ることはあるまい」
夜の一族──数百年前から未だ続く暗黒時代。絶対的な闇の力で生物を支配し続ける闇の住人魔族。
その中でも圧倒的な力と生命力で頂点に君臨するのが夜の一族──吸血鬼である。
太陽に嫌われた純粋な闇の住人である彼らは、夜しか活動出来ないにも関わらず未だに世界を支配しようとしている。
第二次聖魔対戦以降その支配力は確実に弱まってはいるが、人間に恐怖を植え付け心を支配し続けているのである。
村長はページをぱらぱらと再びめくりながら「それに……」と付け加えた。
「まだ一族の仕業と決まったわけではなかろう。得体の知れない妖魔か疑似吸血鬼の類いかもしれん。
ひとまず明日カワラの様子を見に行こうではないか。何か分かるやもしれん」
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