ヨミの逃走劇

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「……いきなり何だ?センセイ」 飛び降りた先で偶然開いていた窓から教室に飛び込み身を伏せると、そんな声が上から降ってきた。 恐怖体験にバクバク言っている心臓をなんとか宥めて上を見上げれば、そこには珍しいが見慣れてきた黒目黒髪。 他にこちらを見やる隣と奥にも、やはり見慣れた顔があった。 偶然にも、入り込んだ此処は俺の担任するクラスだったようだ。 窓際の一番後ろはカレナ・ライルテッド。 俺から見て隣がエート・マケーディアで、奥がハスキメル殿下だ。 そして殿下の隣が、逃亡中2度目の遭遇となるツァイ。 机とコイツらの影になっていて、此処で体を低くしていれば教室の入り口からは多分見えない。 後は当面、ミーナ先生が気付かず他を探しに行くのを祈るばかりだ。 「あー……実はな。ちょっとした行き違いがあってな」 「行き違い?」 これはもう誰かを巻き込むしかない。 事情を話し始めた俺に、カレナが何やら楽しげな顔をした。 コイツは何というか、油断ならない奴、だ。 どこがどう、とはっきりとは言えないんだが、なんとなくそんな印象を持っている。 「……と、言うわけだ。暫らく匿ってくれ」 話の後、いち早く呆れた顔をしたのはツァイ。 「お断わり」と口に出して言われる前に、俺の脳内で天恵が煌めいた。 「ツァイ。ほら、森での、貸しがあるだろ?」 予想的中。 ぐっと詰まったツァイが、不承不承ながらも頷いた。 ツァイが頷けば、あとはもうなし崩しだ。 ハスキメルはこう言っては何だが割と扱いやすい性格だし、カレナとエートも付き合いはいい。 そして4人の協力を取り付けるのを見計らっていたかのように、教室のドアが開いた。 ―――そこには勿論、ミーナ先生が。 ミーナ先生は軽く周囲を見回しながら、ゆっくりと教室の後ろを歩いてこちらに寄ってくる。 うわー、やっべー見つかるー、と言うギリギリのラインで、諦めたのか足を止めた。 「……ユーノトールさん」 「は、はい?」 いつもと違う雰囲気のミーナ先生に、思わず怯えるツァイ。 うんうん、気持ちはわかる。 「ヨミ先生を見ませんでしたか?」 窓に近い生徒達からツァイを選択したのはツァイなら俺を庇うような「付き合い」はしないと踏んだからなのだろうが、今日に限っては例外だ。 俺の運もそう捨てたものじゃない。
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