憂さ晴らし

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魔法で形作られた強大な水のリューが、勢い良く数匹のクルグレインに突っ込んだ。 となれば、当然。 ぽこん。 ぽこぽこぽこん。 ぽこぽこぽこぼこぼこボコボコ――… 分裂する。 盛大な勢いで再び増え始めたクルグレインに、顎が落ちる。 「な、な、な……何やってんだあんたー!!」 恥も外聞もなく、心の底から叫び声を上げた。 せっかく。 せっかくせっかくせっかく、たったあれだけに減ったのに! これで助かると、ほっとしたのに! 最後の最後で何でまた、水属性最上級魔法!? ――…と、まあ。 そんな意味の言葉を、思いの限りぶつけたと思う。 黒ローブは途中から耳を塞ぐ素振りを見せたが、俺は構わず叫び続けた。 思い切り叫んだので、かなり息が乱れている。 叫び終えてはぁ、はぁと肩で息をする俺に、黒ローブは何やらため息を吐いたようだった。 そして、一言。 告げる。 「………憂さ晴らし中」 痛い程の静寂が、森に満ちた。 目が点。 これはこういう時に使う言葉だったのかと、初めて身に染みた。 それきり俺には目もくれず、再びクルグレインを大量に片付け始める黒ローブ。 そして彼は、この作業をこの後更に3・4回繰り返した。 まさか最初の大量発生もコイツの所為だろうか。 そんな風に思ったのがわかったのか、去りぎわに、1枚依頼書の写しを投げられる。 クルグレインの大量発生、緊急度が高いためランクS。 ああそうですか、と、独り言ちた俺だった。 金輪際、黒ローブの人物とは関わらないと心に決めた。
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