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しかし結果として、キリが決定を口にする前に、僕たちの行動は決まってしまった。
音で判断した「ヘイザムが居るらしい方向」の2箇所から、人の悲鳴が聞こえたのだ。
一気に険しい顔になったキリとイルガと、頷き合う。
流石のイルガも、この状況でとやかく言ったりはしないらしい。
「俺は右に。イルガとエートは左を頼む」
――正直な所。
キリではなくイルガと、と言うのは、あまり気乗りがしなかった。
幾ら戦闘で息が合おうと、僕はイルガを信用していない。
イルガも多分、同じだろう。
だが、今はそれを言ってはいけないこともわかっていた。
否応なしに2手に分かれた僕たちは、食事を邪魔され激怒しているヘイザムと、非戦闘員を庇いながらと言う不利な状況で戦うことと相成った。
僕とイルガが駆け付けた先で悲鳴を上げて逃げ惑っていたのは、2人の幼い兄弟だった。
幼い、と言っても、兄に見える子供はもう10歳くらいには見えた。
下の子供も、基礎学校には通っているだろう。
今にもヘイザムの鋭い爪が小柄な子供の体を貫く――そんな、タイミング。
イルガが防御魔法で爪を弾き、僕が大振りの片手剣で指を落とす。
僕が次の攻撃のため切った爪を踏み台にして飛び上がったのと同時に、僕が居た位置をブラインドに利用したイルガの攻撃魔法がヘイザムの耳を焼いた。
ヘイザムと言う魔物を一言で表すと、巨大な猿だ。
けれど一般的な猿よりも腕が長く、目が吊り上がっている。
背中は刺のような鱗があって堅く、指の殆どを占めるような鋭い爪が特徴的。
弱点は、今イルガが焼いた耳。
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