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リィエン・ヒーフル
カレナの世界にある、とあるブランドのデザイナー。
チカラを持つが使う気はなく普通に生活していた所、何故かバレて情報屋のユヤから接触があった。
以来、たまにユヤへと情報提供している。
能力名:電脳世界の物々交換(ネットワーク・ストロー・エルダー)
***
私が彼女のチカラを知ったのは偶然だった。
否、私の職業としては偶然で済ませてはいけないのかもしれない。
職業柄細かい情報を集めて居なければ、流石に気付かなかった事である。
裏社会とも表で生きる隠れ能力者とも関わりのなかった彼女はそのチカラに名前を付けることもしていなかったので、知り合った後、僭越ながら私が命名した。
といっても、彼女との会話で私のチカラと区別したい時にしか使わないのだけれど。
「電脳世界の物々交換」と名付けた彼女のチカラは、その名の通り電脳世界――世界に張り巡らされたインターネットの海の中で、自分の持つ情報と引き換えに、関連があったりなかったりする、別の情報を手に入れるチカラである。
そして手に入る「別の情報」は、「なんとなく彼女に都合のいい情報」となる。
こういう運が絡む系統のチカラはたまにあるが、私には性格上絶対発現しないだろうなと思う。
だって非効率だもの。
「それで、今回の結果は?」
「それが、見てください、これ」
「あら、可愛い」
「無名なブランドなんですけど、もう凄く好みで!そこのデザイナーさんと友達になっちゃいました」
職業はとある有名な服飾ブランドのデザイナーである彼女とは、情報云々を抜きにしても結構趣味が合う。
私も知らなかった街の片隅にある個人ブランドの情報を手に入れて、やっぱり面白いチカラだと再認識。
最初の情報は「交換」した彼女は忘れてしまっているが、彼女の隣家の飼い犬が子供を産んだ、という、仔犬好きくらいしか興味のなさそうなモノである。
それがどこをどうしてファッションブランドの情報になるのか。
興味本位で一度追いかけて見た事もあるが、正直意味不明だった。
やはりカレナがどこからか聞いてきた御伽噺である、「わらしべ長者」に似ている。
あれも話を聞いていて、何その幸運、と慄いた記憶がある。
リィエンのチカラについては慣れたけれど、たまに慣れた私でも驚く情報に辿り着くのだから恐ろしい。
まぁ、彼女自身、それほどチカラを使う気がないので、暇な時にクジ引き感覚で使う程度。
今は私も付いているし、チカラのせいで妙なことに巻き込まれたりはしないだろう。
「仕事はどう?」
「今季の一番大きなコレクションも終わりましたし、ようやく一段落です。ユヤさんは?」
「私はいつもと変わらずね」
後は普通に、「一般人」という立ち位置の情報提供者は貴重である。
彼女が知りえることは私には幾らでも検索出来ることだけれども、その情報を彼女が知っているという情報はとても有意義だ。
裏の人間と話す時のように気を張らなくていい、というのも嬉しい。
「そういえば、この辺りに新しいカフェが出来たはずよ」
「え!流石ユヤさん!行きましょ!」
――情報屋の仕事は、1分1秒が命。
こうしてリィエンと会っている今でも、最低限の情報収集は仕掛けてある。
だから、完全に「仕事を忘れる」とまでは、いかないけれど。
たまにはこうして、ただ「友人」とお茶をするような、平和な時間があってもいい。
やはり彼女は、私にとって貴重な人なのだ。
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