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トーノ・ユウミ・リア・ウィステ
異世界リルアチュア、魔族の土地グリーザムに住むガンド族。
親子2代で四天王であるリスティエ親子旗下の軍人。
ターニャ父が現役の際に入隊、ターニャが四天王になってからは側近に引き立てられて、生真面目なターニャを柔軟にサポートしている。
得手:薙刀
***
お嬢の朝は早い。
正直早すぎると思う。
まあお嬢だけなら起床時間が早かろうが遅かろうが、好きにすればいいことなのだけれど。
「ほら、だから言ったじゃないですか」
「……お、遅れるよりは早い方がいいでしょう?」
「付き合って起きるわたしの身にもなってくださいよー」
本日は、我らが南方軍の新任加入者の初訓練日である。
開始時間は今から2時間後。
「待ち切れなくて早めに来る人が居るかもしれない」と張り切ったお嬢が、誰一人として待たせるものかと早起きして現在に至る。
徴兵された軍で訓練初日に2時間前に来ちゃうとか、やるのはお嬢くらいだと思う。
いや、まあ、うちの種族は魔族の中でも好戦的な人間が多いから、絶対ナイかと言われると、否定は出来ないんだけど。
そして否定出来なかったから、こうなったわけだけど。
「……あと2時間、どうします?」
人影が1つも見えない訓練所を見渡して隣のお嬢――現・リスティエ南方将軍に尋ねれば、彼女は幼い頃から変わらぬ無邪気な笑顔でこう言った。
「え? もちろん、手合わせするでしょう?」
はい、私とお嬢だけ訓練時間2時間増加決定ー。
……。
…………え?死ねと?
そのことに全く疑問を抱くことなく、お嬢が愛用の大剣を取り出したのを見て、ほぼ反射的に私も薙刀を構える。
訓練と言えど、私とお嬢がやる手合わせは普通にいつもの武器を使う。
というか、新兵とやるとか、実力が隔絶し過ぎてる時以外、基本刃引きの武器なんて使わない。
お嬢はこの若さでウチの軍で一番強い人ではあるが、私も伊達にリテイン前将軍から軍属の古株をやってるわけじゃない。
手合わせくらいなら、まぁどうにか――
ならねぇよ?
「ユウミ、腕を上げたわね!」
手合わせ後、多少の疲れが見えるお嬢が、嬉しそうに笑う。
こちらはその言葉に声を返す余裕はない。座り込んだままなんとか左手を上げて、返事代わりにひらひら振った。
お嬢は、魔族四天王である。
四天王という役職は、生半可な強さで着けるものでは無い。
こんな若くて可愛らしいお嬢だが、その実力は本物だ。
そんな人と、普通の武器で手合わせとか。
こっちはそりゃ全力出さないと死ぬから!比喩じゃなく!
訓練開始前にも関わらず、もはや息も絶え絶えである。
もう今日の仕事は終わりでいいんじゃないだろうか?
え? いや待って、訓練開始前?
これから訓練? え? これから? ……え?
「さ、そろそろ新人が集まってきてるわ。始めましょう」
爽やかに言い切ったお嬢に、私は天を仰いだ。
その後どうにかその日の訓練をやり遂げた私を誰か褒め称えるといいと思う。
今後一切、お嬢の早起きには付き合わないと、私は誓った。
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