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軽口を叩きながらも、僕もイルガも動きは止めない。
時には同時に、時には交互に、片方の攻撃を目隠しに、盾に、囮にしてヘイザムに対しての攻撃を繰り返す。
大きさに相応しく持久力も高いヘイザムだが、怒りによる暴走状態なのもあり、目に見えて隙が増えてきた。
周囲の広葉樹林に出来るだけ損害を与えないために大きな攻撃魔法を使えなくとも、子供たちも保護できている現状、そこまで梃子摺るような相手ではない。
慢心ではない、それは冷静な戦力分析で、今後の行動を決めるための未来予測だった。
これなら、2人でヘイザムを担当することもない。
別れたキリの方に居るはずの1体を数えてもまだ目の前のヘイザム以外に他に2体、討伐対象がいるはずなので、あまり時間をかけたくも無い。
そんな思考で、僕は口を開いた。
同時にタイミングを図って武器を振るい、ヘイザムをよろめかせる。
「これくらいダメージを与えられれば、あとは僕だけで問題ありません。残りのこともありますし、今のうちに子供たちをお願いします」
「はぁ?……あー、まぁ、そうだな。でもなんで俺がガキ相手なわけ?ガキはガキ同士、僕ちゃんが連れてけよ」
「あなたみたいな道理が分からないバカでも、こういう場合大人の方が彼らが安心するからです。発言する前に少しは考えくれませんか」
「ああ?誰がバカだと――……、…………チッ、わぁーったよ」
まだ何か言いたそうにしていたイルガだが、余裕はあるとはいえ戦闘中である。
長話をしている暇はないと気付き、舌打ちしながら一転、ヘイザムの攻撃範囲から離脱する。
逆に僕は距離を詰めて、イルガと子供たちから興味を逸らすようにヘイザムの視線を誘導した。
「おいガキども、今のうちに逃げるぞ。町まで送ってやるから――」
少し距離が開いて小さくなったイルガの声が、耳に届く。
途中ヘイザムの雄叫びに掻き消されたが、もう役割分担は済んだのだから、気にすべきはあちらではない。
自分の担当となった目の前の魔物に、意識を集中させた。
直後、
「――――ウソだろ、クソっエート!!」
イルガの向かった方向から、魔力の気配が膨れ上がった。
「逃げろッ!」
反射的に目を向けた視界の中で、要救助者の片割れ――兄の方が、「褒めて」と言いたげに無邪気に笑った。
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