序章

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ギュッと縋るように抱き付いてきた少女の頭を、少年は優しく撫でる。 『なぁ、何をお願いしたんだ?』 『ないしょっ!』 『なんだよ。俺には言えない恥ずかしい願い事なのか? ……あ。わかった。おねしょが治りますように、だろ?』 『ち、ちがうもん!! もっとたいせつなおねがいごと、だもんっ!!』 少年は必死に抗議する少女を見て、更に笑みを深くする。そんな願いをしていない事など少女を見れば直ぐに分かるのだが、少女の反応が可愛くて仕方ない。少年は繰り返し、少女をからかい続けた。 『二人共ー、何してるの? 帰るわよー?』 『あ、うん』 『お母さんっ!! あのねあのね、きいてきいて!! あたしね――……』 両親の待つ高台へと駆けていく、二つの影。何処にでもある家族の光景。 この時は思ってもみなかった。 こんなにも満たされた幸せな日々が一瞬にして壊されるなんて。 神様は何一つ叶えてくれなかった。ただ、一緒にいたいだけだったのに。 『どうか、いつまでもお兄ちゃん達と一緒にいられますように――――』
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