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壁に掛けられた時計の秒針が真上を指すのと同時に部屋に入って来た男。
彼が開け放たれていたドアを閉めたことで、時間が来たこと、今入って来た男こそがこの説明会の主催者側の人間であることが分かる。
注目を一身に集めながら、そんなことは気にも留めない平然とした顔で、男はオレたちの正面、ホワイトボードの前に立った。
妙に印象の強い男だった。
歳はまだ若い。二十歳そこそこといったところか。
やや細すぎるほどの痩身に黒いスーツ。野暮ったい黒ぶち眼鏡に、両耳をじゃらじゃらと飾る銀色のピアス。ミスマッチなようでいて妙に洒落て見えるのが不思議だ。
ゆっくりとした動きで室内の人々を見渡す。オレと目が合って、その一瞬だけ動きが止まった。
思わず体が強張る。
恐らくこの部屋でオレだけが、あの封筒を受け取っていない人間だ。例え文句を言われたとしても居座るつもりはあったが(えりんを一人にはできない)、それでもやはり緊張はする。
しかしオレの心配をよそに、男は何も言わなかった。
全員に向けて懐っこい笑顔を浮かべる。
「皆さん、本日はお集まりいただきありがとうございます」
一般人とは思えないくらい、やたらに耳ざわりのいい声、話し方だった。
「はじめに申し上げておきますが、わたくしの方から皆さんへ、【NGゲーム】への参加を強制することは決してございません。参加するか否かは当然ながら皆さん次第ですし、その決定も一週間後が期限ですので、これからわたくしが説明する内容を受けてゆっくり考えていただきたく思います。
また、本日以降、郵便その他の手段で皆さんの参加を促す行為は一切いたしません。
それらの点についてはどうかご安心ください」
そこで一旦言葉を切り、オレたちの反応を確かめる。
最初に提示するには適切な内容だ。これでひとまず、今すぐ逃げ帰るという選択はなくなった。もちろんその言葉だってどこまで信用できるか分かったものではないけれど。
声を上げる者のないことを確認して言葉を続ける。
「では、説明会を始めます。質問はいつでも受け付けますので、その際は挙手をお願いします。
さて――まずはこのゲームの名称、【NGゲーム】ですね。これについてですが。NGという言葉で、どんなものをイメージされますか?
そうですね……そこの方。どうですか?」
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