1 参加権

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そこの方、と指されたのは一番前に座っている女の人だ。 斜め後ろのオレからはほとんど後ろ姿しか見えないが、恐らくこの人も二十代くらいだろう。緩く巻いた髪を弄っていた右手を止め、戸惑うような仕草を見せてから、はっきりしない口調で答える。 「えー、えっと……ドラマとかでぇ、失敗した時とか?」 「そうですね、NGシーンという言葉を聞きます。では、そこの方。他にありますか?」 「えっ?」 今度はその女性より少し後ろに座っている中年男性が指名され驚きの声を上げる。 学校ではよく見る光景だけど、学生でなくてもいくつになっても、いきなり指されるのは嬉しくないことなんだろう。 「他にって……あー、あの、NGワードとか、昔言わなかったか」 「はい、ありがとうございます」 黒スーツの男は満足げににっこり笑う。 「皆さんがテレビ等で耳にするNGというのは放送用語の一種で、本来出来上がるはずのものとは違った失敗品、公開できないもの、等を表現する言葉です。  恐らく皆さん、おおよそのニュアンスは理解できていらっしゃると思います。  【NGゲーム】とは、簡単に言えば、そのNGを回避するゲームです。  このゲームに参加する方には、それぞれ異なる『してはいけないこと』が与えられます。  その『してはいけないこと』……つまりNG行為を犯してしまった方はその時点で敗北が決定し、最後の一人になるまで残った方が優勝者となります。  これが【NGゲーム】の最も基本的なルールです」 してはいけないこと……。 少し違うけど、昔似たようなゲームをしたことがある。その時のNGは行為じゃなくて言葉だった。一人一人、頭上に掲げた自分の禁止ワードだけが見えないようになっていて、対戦相手に禁止ワードを言わせるよう上手く引っ掛ける、というゲームだった。 それと同じようなゲームだというなら、覚悟していたほど怪しいゲームというわけでもないのかもしれない。 説明は続く。 「勝ち残った場合。皆さんご存じの通り、当方が優勝された方の望みをひとつだけ叶えさせていただきます。  この望みは何であろうと構いませんが、ゲーム参加の際に決めていただき、以後変更することはできません。  そして、敗北された方々には、残念ですが」 男は完璧な営業スマイルを保ったまま、はっきりきっぱりと言った。 「死んでいただきます」
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