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黒スーツの男の言葉は事実なのだろう。
視線をさ迷わせる中年男性も、落ち着かない様子で髪を弄っている女性も、俯いたままのえりんも、皆。こんな悪ふざけに付き合っていられないと部屋を飛び出していく、そんな常識的な発想に至ることができない。
叶えたい願いの大きさが彼らの理性の邪魔をする。
「……願いを叶えるだなんて、本当にできるんですか?」
誰かが呟くように言った。
「はい」
断言。
少しの間、気持ちの悪い沈黙が場を満たした。
「……質問、いいですか?」
挙手したのはオレだ。
全員の注目が集まる。
「はい、何でしょう」
「オレは付添で来ただけで、手紙とか受け取ってないんですけど。
それでも参加することはできますか?」
「オトっ?」
えりんが驚きの声を上げる。
説明は後だ。今は知っておきたいことが多すぎる。
対して男はまるで驚いた気配がない。やはり最初に目が合った時に、オレが招かれざる客だということに気付いていたのか。
「そうですね。あなたがそれを望まれるなら、こちらとしては何ら問題はございません」
カサ、と小さな音。視界に紛れこむ赤。
それが何であるかを認識した瞬間。全身から冷たい汗が滲み出るのを感じた。
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