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赤い封筒。
ほんの一瞬前まで何もなかったはずのオレの目の前に、だ。
「そちらをお持ちください」
てのひらを上にして「どうぞ」のポーズ。
そのにこやかな表情があまりにも不気味だった。何でもないことのように、今何をした?
この男は何者だ?
違う。
この男は、何だ?
「皆さんにもお持ちいただきました赤い封筒が、参加に必要なチケット代わりになっています。
一週間後の五月一日午前0時。日曜から月曜になるその瞬間までに、どんなものでもいいので紙をご用意していただき、ご自分の願いを書いて封筒に入れておいてください。参加されない場合は、くれぐれも、何も中には入れないでください」
「本当に、何でも叶えてもらえるんですか?」
小学生の男の子が確認する。
「はい」
やはり、断言。揺らぐ様子もない。
何とはなしに空気で感じる。今、この場にいる全員が、参加の方へと傾いている。
あれほど怪しい手紙であってもえりんがこの場を訪れることを諦めなかったように。命がけのゲームであっても惹かれてしまう、その理由を有している。
それはオレがどんなに倫理的な正論を吐いたところで妨害できるものではない。
ただ、もうひとつだけ、皆がいる前で明らかにしておかなければいけないことがある。
もう一度手を挙げる。てのひらがじっとりと湿っていて不快だ。
「もうひとつ質問」
「どうぞ」
「……他の人の妨害はできるんですか?」
「はい。ゲームというくらいですし、ただ決着が着くまで全員が待ち続けるだけでは何のゲーム性もございませんからね。
では、その件も含めて、もう少し詳細にルールの説明をさせていただきます」
男はホワイトボード用のマジックを手に、図解を交えながら説明を始める。
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