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「オト、ちょっといい?」
ノックの後、ドアの向こうから聞き慣れた声。
昔はノック?何それ?とばかりに飛び込んで来ていたけど、こればっかりはさすがに守るようにと言い聞かせてある。年頃の男には色々あるんだ。
おう、と応えるとドアを開けて入って来た。珍しく鞄なんて持っている。大抵うちに来る時は手ぶらなのに。
「何だ?」
「あのね、ちょっと……相談したいことがあって」
勝手知ったるなんとやら、躊躇なくオレの傍に座ってクッションを引き寄せる。一昨年の誕生日にえりんからもらったものだ。オレよりも誰よりも贈った本人が気に入っている。
そのまま、クッションを抱き潰したりぼすぼす叩いたりするだけで、なかなか話し出そうとしない。
別に急かす必要もないので、オレはオレで漫画の続きを読みながら話す気になるまでのんびり待つ。
丸一話分ほど読み進めたところで、ようやくえりんが口を開いた。
「あのね」
「うん」
「これ、見て」
手提げ鞄の中から取り出したのは、一枚の封筒だった。
封筒、と表現したものの、一目でそうと分かったわけではない。こんな、悪趣味なぐらいに真っ青な封筒なんて今までに見たこともなかったから。
宛名のところには隣の住所と「蔓えりん様」の文字とが印刷されている。
その青い封筒の中からは、一回り小さな、今度は真っ赤な封筒。それから一枚の白い紙。
えりんは紙の方を――何やら文章の印刷されたそれをオレに差し出した。
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