旅立

2/6
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
「エルー、そこの草刈り終わったら隣の田に水蒔いといてねー」 灼熱のような暑さを生み出す太陽が照りつける中、麦わら帽を被った若い女性が、米俵を乗せた木の押し車を押しながら声を震わす。 その声に反応したのは、周り一面、田んぼだらけの中で、腰を曲げて草刈りに没頭している少女。 滂沱の汗を流す、腰ぐらいまである黒茶色の髪をなびかせる少女は、その汗をぐいっと拭いながら、顔を上げた。 「わかったー」 少女は暑さによる疲労感や苦痛な表情を全く見せることなく、笑顔で元気よく答えた。 この少女こそが、後に大魔導師とも呼ばれる才能を開花させた『エルール=ラディリス』である。 エルールの家族は主に農作物を作り、我が家の家計を支える職を受け持っていた。 人口の6割が農民であるディストピアでは、普通とはなんら変わらない光景である。 では、残りの4割とは一体何者なのだろうか? 大雑把に分類してしまえば、残る全員は『魔法使い』である。 魔法の力を駆使して、人間の力では不可能な仕事をこなすことが出来る魔法使いは、重宝された存在であり、農民に比べて遥かに儲けることが出来た。 実際にはディストピアの人間は誰もが魔法を使えるが、その強弱により、職として使えるか否かが審議される。 いわゆる、面接みたいなものだ。 それに受からない者が6割……すなわち、農民である。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!