「ラブホテルに入ったら」

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 うろこ雲が浮かぶ秋らしい晴天の下、待ち合わせ場所に指定した駅前ロータリーに現れたのは、僕が予想もしていなかった美少女だった。  陽の光を弾いて輝く長い黒髪に、大きな瞳が印象的なその少女は、地元でも人気の高い有名校の制服を上品に着こなし……ってゆーか、僕と同じ高校の制服じゃないか。 「へぇ、こんなかわいい子が……しかし、世界は狭いなぁ」  広い広いネットの世界で知り合い、今日初めて彼女の姿を見た僕は、その可憐な雰囲気に感嘆の吐息を漏らしつつ、ついそう呟いたのだった。  こんな子にも死にたくなるほどの悩みがあるなんて、信じられないなぁ。  容姿端麗だから幸せ、ってわけでもないってことか。  彼女は僕が手にしている『罪と罰(上)』に気付くと、自分の持つ同書の下巻を天高く掲げた。  元気のいいアクションの割りには全くの無表情なので、それが僕には大変奇妙な光景に見えた。  ……お互い顔も知らない者同士ということで、待ち合わせの目印として用意することになってはいたけど……。  別にそこまで主張しなくてもいいのでは?  横の人が不思議そうに見てるじゃん。恥ずかしくないんだろうか?
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