「ラブホテルに入ったら」

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 彼女はそのままの体勢で僕の側まで一定の速度で歩み寄ると、 「初めまして。私は闇猫(やみねこ)。あなたがクロスケさん、ね?」  やけに平坦な調子で第一声を放った。  鈴の音のように透き通った声が台無しだ。  残念。……がっている場合じゃないな。挨拶しなくちゃ。 「ああ、初めまして、かな? 同じ学校みたいだし、どこかで会っているかもしれないけど」 「そうね。でも、そんな事はどうでもいいわ」  挨拶もそこそこに、彼女は何の迷いも無く僕の手を取ると、大股に歩き出した。  そして警報音が鳴り響く駅横の踏み切りまで引っ張られた僕は、線路に向かって思いっきり突き飛ばされていた。  不意をつかれた僕は、フニャフニャとした竹で出来た遮断機を、踏み越える事しか出来なかった。  電車の通過待ちをしていた人々から悲鳴が湧き起こり、やけに近くで耳をつんざく警笛の音がする。  すぐさま音のする方へと首を回すと、電車が目前まで迫っていた。
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