3.曇り。晴れは来るのか

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ノートはどこかにいき、バッグの中には生ゴミが。以前のいじめより質が悪くなっている「あんたに向かうはずの矛先が私に向かって来てるんだからね?」 「いや、悪いとは思ってるけどさ、もちろん。でも俺にも多少被害は来てるぞ。大したことないけど。」 「え、嘘。」 「本当。」 ごろんと仰向けに寝転がり、新谷は足を組んだ。 「数学の教科書と英語のノート、それから英和事典が消えた。」 「それって、大したことじゃない?」 「大したことじゃねーって、吉崎のに比べたら。」 「授業に支障出ないの?」 「全く。」 香緒里の問いに対して新谷はあっさり答えた。 「だって数学は教科書見なくても黒板見てりゃわかるし、ぶっちゃけノートなくても問題ないし。英語は教科書さえあれば平気。っつーか、先生の話聞いてれば答えられる。」 そうだ、忘れていた。新谷は異常に頭がいいのだった。定期試験では必ず全教科満点で学年一位。模試をやらせれば常に偏差値は80近い。 「…尋ねた私が馬鹿だったかも。」 新谷はおかしそうに笑い、それからポツンと言った。 「ま、学校で避けられたり、一人でいるのは慣れてるからな。」 その表情が酷く寂しげに見え、香緒里は新谷から目を逸らした。 「でも本当に意外だったな。新谷、クラスの事にあんまり興味ないんじゃないかって思ってたから。」 「んーまぁ、興味はあんまりないけどな。けど、目の前であーいう事されんのはいい加減、気分が悪い。だからそれをはっきり言ったまでだ。」 「そっか……。」 「吉崎もそれに近いんだろ?」 「うん、まぁ…。」 香緒里はいじめを止めようとした。けれどそれは雪音達が可哀相だからではなく、ただ見ていることに耐えられなかったから。自己本意だ。それは新谷にしても同じで。人間なんて皆そんなものだ。確かに偽善と言われればそれまでだが、少なくとも香緒里は今の状況を、見ているだけの自分を変えたかった。それだけのことだ。 「なんか、このままだと今日一日の中で新谷としか話さなくなりそう…。」 「部活や家でも話さないのかよ?」 問い返すと香緒里は少し目を伏せた。 「部活はまぁ、別だけど…今日はないし。それに私、あんまり両親とも姉とも仲良くないから…。」 ふ~ん。と新谷は言い、それ以上は追及しなかった。 「誰とも話さないで一日が終わるよりはいいんじゃん?」 「それはそうだけど。」
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