第一話 倉の中身は汚ねえな

4/7
前へ
/27ページ
次へ
険しい表情を浮かべて少しずつ何かに近寄る女性。しかし、先ほど僅かに動いたきり、それは微動だにしなかった。 待ち伏せているのか?そんな考えが頭をよぎり、女性は警戒の色を一層強める。そして、それがハッキリと見える場所に着く頃には、心身共に臨戦態勢に入っていた。 薄暗い空間で、それが何なのか確認しようと目を細める。 「う…………」 それは、箒を床に立てながら握ったまま、うつ伏せに倒れる人物だった。女性から見て、その人物は見事なL字を形成している。 そして止め金が外れたように箒が床に音を立てて倒れる。すると次の瞬間 「あやっはあああええあやああああああ!?わしゃ犬じゃねええええええ!!!!」 情けない悲鳴をあげながら飛び起きると、それは人里を歩いていても特に怪しまれそうもない格好をした男だと分かった。 男は部屋の隅に猛スピードで走って行き、ガタガタと頭を抱えて震えながらうずくまる。 それを見た女性は一気に緊張の糸がほどけたのか、拍子抜けだとばかりに目を点にして肩を落とす。そして男に歩み寄り、近くにしゃがみこみながら声をかける。 「……そんなに怖がらなくてもいいぞ?別にお前を取って食ったりはせんから落ち着け。な?」 「…………へ?」 ゆっくりと上半身を起こして振り向く男。その視線の先には、苦笑いを浮かべる女性の姿があった。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加