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鷹兵衛には思い当たる節がいくつかあった。まず、現世の日本が戦争に負けてから復興を始めた頃。それまで軽々と操れていた倉の中のつづらや箱が、妙に重苦しく感じる時があった。
さらに数十年後の平成。容易に払い飛ばす事ができたゴミやホコリが、年々積もりやすくなってきていた。最近では箒と塵取りを使わなければ、倉の中のホコリを外へ払い除く事ができなくなっていたではないか。
何故もっと早く気付かなかったのか。そんな思いが腹にのしかかっては、暗い気持ちになっていく。
その時、夫婦と思しき老婆と爺が鷹兵衛に声をかける。
「そう暗い顔をしなさんな。あたしらが倉ぼっこ様を担いであげれば問題ないんだろ?」
「わしら老い先短いが、里にゃあ若衆もおる。それに、倉は皆の大事な物をしまう場所。あって損はせんじゃろに」
老夫婦の優しい言葉を皮切りに、少しずつ鷹兵衛に励ましや信仰しようという声が高まっていく。
それを聞いた鷹兵衛の表情は次第に驚愕と嬉しさが混じったものになっていき、その場に座り直しては真剣な表情で皆に向き合う。
そして慧音の制止で皆が静まり返った時、ゆっくりと口を開いた。
「この倉中鷹兵衛、わしを信仰してくれる皆の為、微力ながら里の繁栄に加担させて頂く。何とぞ、よろしくお願い申し上げつかまつる!」
深々と土下座をする鷹兵衛。それを見た皆は
「神様が土下座なんかしてんじゃねえよ!」
「もっとふんぞり返っていいんだぜ?」
「神様らしく堂々としなさいな」
小馬鹿、励まし、そして笑い声。鷹兵衛が土下座を解いて皆と大笑いするまで、時間は掛からなかった。そして、そんな彼の傍らで、慧音は小さく笑いながら一言呟いた。
「ようこそ、幻想郷へ」
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