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「私に真実を教えようと後宮におびき出したのね」
ふいに後ろで聞こえた声に男が振り向く。
そしてパッとひれ伏した。
「これは皇妃様」
「そうなのでしょう?」
「皇妃様のおっしゃることは、私にはさっぱりわかりません」
「私、なぜ母さんがあなたを選んだのか分かるような気がしたわ。自分のことを省みずに他人のために動きまわる人一倍強い正義感と行動力。母さんはそこに惚れたのね」
「………」
「私が四歳の時に父はもう傍居なかった。私達を捨てたことはたとえ理由はどうあれ私は許すことができないわ」
「………」
「私の名前をつけたのは父さんだって、母さんに聞いたことがあるわ。もし目の前に父がいるのなら、どの人を父とは認めないけど、まずこう言うわ。『良い名をつけてくれてありがとう』」
「…………」
胡蝶は男にハンカチを手渡した。
「これは…」
「もし父を見つけたら、それを渡すつもりだったの。下手だけど、小さい頃に縫った刺繍よ。これをあなたにあげるわ」
そのハンカチには、湖の上を悠然と飛ぶ蝶が刺繍されていた。
しかし表情を変えなかった男を最後にひと目くれると、胡蝶は目を伏せその場を去った。
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