八章 二つの盃

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法元三十一年 八月三日 彗史にもっとも濃く書き記されている『黄姓事件』が終止符を打つ。  宮殿にある一角の神殿に黄結蓮は足を踏み入れた。 「この服は、最初に出会った私達が着ていた服。その服を着ているのが私の知っている結蓮よ」 「…………」 きらびやかな踊り子衣装に包まれた結蓮は、同じ服をまとう胡蝶を睨む。 「あれをみて」 胡蝶が指差したその先には机の上に乗った位牌だった。 しかし名前は書き記されていない。 胡蝶は二つ盃を手に取った。 「あなたのしたことは許されることじゃない」 「あなたを殺すと決めた時点で、アタシは死なんか恐れてなかったわ」 「―けど、私はあなたをずっと友達と思っていた。だから生きるチャンスをあげる。この二つの盃のうち片方は酒、もう片方は毒。どちらか一つ選びなさい」 結蓮は右の盃を手に取った。 そしてニッと笑うと飲み干した。
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