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柿。
家の前で熟しすぎた柿が地面に落ち、潰れている。
原形をとどめないそれは、甘い匂いで僕の肺を満たす。胸が苦しくなる。
濃厚な死の匂い。
落ちた柿が、今際に放つ甘美な誘惑の香り。
楽になってしまえ。臆する事はない。私達のようにただ土へと還るだけ。容易い事だ。この世は苦しいだろう。さあ、こっちへ来い。
翌朝起きると、家の前には潰れた柿とそれに塗れて恍惚とした表情で息絶えている一人の男がいた。
その表情を少し羨ましく感じた自分がいる。
柿が妖しく笑った。
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