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――パンッ。
胸をはやし立てる音楽の中を、乾いた鉄砲音が突き抜ける。
今日は学校の一大行事の日。秋期親睦会、秋にある運動会の日だ。
鉄砲音を合図に、スタートを切った選手たちが走り始める。
「……くそッ!」
俺は、走れない。
俺が走るはずだった四百メートルリレー、放課後に必死で練習だってした。
俺のいるべきはずの位置には、代わりの選手がいる。
「なんで……なんだよ」
胸の奥底から込み上げくる感情には名前がつけられない。嫉妬、悔しさ、後悔、悲しみ……様々な負の感情がもつれ合う。
「昨日、あの車さえ曲がってこなければ……あの車さえ……ッ」
昨日の放課後、いつもの帰り道。何も変わらぬはずだった運命が、一台の車によって百八十度回転してしまった。
思い出したくもない。
自分の中で螺旋を描くように無限に増殖していく感情を抑えきれずに、地面に転がっていた石ころを蹴り上げる。
――空振り。
勢いよく足を振ったせいで、体のバランスが崩れてその場に倒れ込んでしまった。
「……う、ッ痛……」
目の前には、右足の代わりに体を支えてくれていた松葉杖と石ころ。
痛みに耐えながら、松葉杖を拾い上げて体勢を戻していく。
ははっ……、俺は石ころ以下ってことか。
楽しみにしていた運動会も、今となっては見ていることすら辛い。
他の奴が走っている姿を、応援されている姿を……これ以上、見たくない。
俺は運動会に背を向けて、校舎へと入っていく。
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