妄想の秋

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校舎の中へ入っていく俺の姿を見ても、誰も止めない。 昨日までは同じ教室で勉強していた仲間なのに……高校最後の運動会頑張ろうな、なんて言い合っていたくせに声すらかけようとしない。 所詮、俺は怪我でメンバーから外れてしまった不要な人間。 いなくなった所で誰も困らないし、見向きもしないだろう。 俺は自分自身を納得させてから、呪文のように纏わりつく音楽から逃れるように、階段を上がっていく。 重い体を動かして何段目の階段だろうか。 最後の階段を上り終えてたどり着いた先は、頑丈につくられたドアの前。 体のバランスを崩さぬように、慎重に扉を押して開けていく。 「……着いた」 目の前に広がるのは、開放感溢れる青の世界。 所々に模様を描くように白が散りばめられた空。 全てを飲み込んでしまいそうな世界観に、歪んでいた心が穏やかになっていく。 「やっぱり、ここが一番落ち着く場所だ」 一歩踏み出した俺は世界と世界の境界線を越えて、ドアを閉めた。 張り巡らされたフェンスまで歩いて、もたれかかるように座る。 何か嫌なことがあっても、ここに来ると自然と気持ちが落ち着く。 屋上は、俺のお気に入りの場所だ。
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