PHASE.1

8/15
前へ
/15ページ
次へ
「……私の、名前」 「名前……? あっ!!」 どう答えたらいいのか分からず、しどろもどろしている僕に答えるように、彼女──アナスタシアが重ねて口を開く。 「ぼっ、僕は悠人! 綾瀬悠人ッ!!」 慌てて名乗る僕に満足したのか、アナスタシアは少しだけ表情を緩めた。 そして、頭に刻み込むように何回も、僕の名前をずさみ始める。 「ゆーと……ゆーと……ゆーと……」 その様子が、まるで小さな子どものように微笑ましく見えて、自然と頬が緩むのをはっきりと感じた。 (こんな気持ちになるのって何時ぶりだろ……?) まるで湖に広がる波紋のように、ずっと止まっていた感情の波が心の中で静かにざわめいている。 (……とっくに無くしちゃったんだって思ってたんだけどな) そう、10年前のあの日から。 何もできなかった後悔と失ってしまった虚脱感、そして恐怖に負け手を差し伸べなかった自分に対する憤怒と憎悪。 その果てに、僕は〝空っぽ〟になった。 そう、思っていた……。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加