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夢を語れる人になりたかった。
どんなに現実が厳しくても、それを乗り越えて夢を掴んだ人だけが、夢を語れる権利を得られるから。
どんなに年をとっても、夢を語れる人は、きっと素敵な人だろう。
しかし、それは去年までの話。高知県出身の夢見る田舎娘、南梨子は、去年ビグマ部長と出会い、死んでしまったのです。
今ここにいる私は、もう夢見る少女でも何でもない。夢を語る人を見つけては、虚勢かはたまたナルチシズムか、どちらの属性なのかをただただ分析するアラサーなのです。
ビグマ部長は、私がつけたあだ名で、ビッグマウスの略。
ビグマ部長との出会いは、遡ること三年前。同期に誘われた飲み会だった。「今の世代で、俺より出世が早いやつはいない」
彼の最初の一言はこれだった。今となって慣れっこだが、それが彼の自己アピール方法なのだ。孔雀が大きな羽根を広げて自分をよく見せるように、彼は言葉という衣で自分をよく見せる。しかし、その言葉自体は嘘でも何でもない。事実、ビグマは同期一の出世頭だったのだから。
しかし、やっかいなのは、その出世が言葉による出世だったときだ。言葉で出世して、出世という事実でまた出世する。嘘を嘘で塗り固めていくような危険な行為。
「最近の若いやつは全然大したことない」
ふたこと目にビグマは涼しい笑顔でそういった。…何を根拠に? 私は頭の中でそう思った。ビグマの周りのほんの一握りの人間だけがそうなのかもしれない。
文化は、初めて異文化に出会ったときの二三の印象で決まるという。人間とはそういう風に、差別や偏見やいじめを生み出してきたのかもしれない。だけど、自分が偏見を受ける立場だったら?
例え世の中から偏見がなくならないとしても、自分がそういう状況に陥ることを願う人間がいるとは思えない。私だって…。
この日から、私はビグマに負けない確かな実力を手にしようと思ったのです。
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