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これは彼女の服装のせいもあるだろう。身体のラインを表さない真っ赤なサンタ服は可愛らしいが色気には乏しい。これがセクシーな水着娘との同居なら、話はまったく違っていたかもしれない。
今では充輝は、彼が世話をしなくては生きていけない人間型ペットと一緒に暮らしている気分になっている。
「じゃあ、僕、そろそろ学校に行きます。後片付け大丈夫ですか?」
「まかせてよ。私、作るのは苦手だけど、しまうのは得意なのよ」
リサは、サンタ服の脇腹に手を置いて胸を張った。得意そうに女王様ポーズをする彼女に、充輝は遠慮がちに声をかける。
「お茶碗をこれ以上割ってしまうと、プラスチックのお茶碗に替えます。百円ショップのお茶碗だって、10回割ったら千円かかってしまうんですよ。姉さん。わかってますか?」
「わかってるわよ。充輝くん」
まるで小姑のように細かいを言う充輝に、リサは元気よく請け負った。
彼は、姉になったサンタ娘が不燃ゴミの袋に割れた食器をしまわないことを祈りながらがっこうへと向かうのだった。
☆
「おはようございます」
外に出た充輝は、エレベーターへ向かう道すがら、すれ違う人に挨拶をする。
「待ってっ。充輝くんっ。自転車の鍵を忘れてる」
リサが息を荒げながら充輝を追いかけてきた。マンションの廊下を走るサンタ服の娘はひたすら異様なのだが、誰も不振そうな視線一つ寄越さない。
充輝は姉から自転車の鍵を受け取ってズボンのポケットに入れると、学校に向けて歩き出す。
『一つ目のプレゼントはアタリだったなぁ』
マンションのご近所さんも、たまに電話をかけてくる父も親戚も、友達も、リサを充輝の本物の姉だと思いこんでいる。
もしかすると戸籍さえも変わっているに違いない。そんな確信があるほど、周囲のリサに対する反応は普通だった。
ボアの縁取りがついた真っ赤なサンタ服も、屋内でもつけているサンタ帽さえ、ご近所さんの目には何の違和感もなく映るらしい。さすがサンタのプレゼントと感心する。
プレゼントはあと2つ。どんなすてきなことが起こるかと思うとワクワクする。
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