245人が本棚に入れています
本棚に追加
女性も充輝を振り返り、大きな黒い瞳を不思議そうに見開いて小首を傾げている。鈍重なのか、訳が分からないのか、自転車に気付いているはずなのに、避ける気配がない。
「わっ、ぶつかる、わわわっ、わぁっ!!」
充輝は自転車のブレーキを握りしめ、思いっきりハンドルを切った。雪のせいでタイヤを取られ、自転車が壁にぶつかって横転する。自転車のタイヤが軋み、耳が痛くなるような音と衝撃音が響く。
運転していた本人は、アスファルトに派手に転ぶ。雪の路上に放り出された彼は、あまりの苦痛と衝撃に息が止まりそうな思いを味わった。
一方、サンタ服の女の人は、よろめいて背中に背負っていた袋を落としてしまう。
「わぁっ、いててっ…うわ、な、なんだよっ、なんでこんな時間にケーキの販売なんだよっ」
路上にひっくりかえったまま、ぶつくさと文句を放つ充輝の声に重なるようにして、女の人の悲鳴がはじけた。
「キャー、だ、誰かっ。シカさぁんっ。に、荷物っ、プレゼント、きゃあ、飛んでっちゃうっ。やだぁっ。行っちゃだめぇっ。きゃあきゃあっ!!」
彼女はさっきまでの鈍重さは何だったのかと思うほどの機敏な動きでしゃがみ込むと、雪の地面にひざまずき、オロオロとこぼれた荷物をかき集める。カラフルな包装紙でラッピングされ、リボンをかけた大小さまざまな可愛い箱だ。サンタ娘があわてふためく度に、赤い帽子と黒髪が揺れ、帽子の先の白いフワフワの玉がぴょこぴょこ揺れる。
箱は、地面に落ちると同時に消え去っていく。まるで雪のようだった。
「きゃあぁあぁっ。プ、プレゼントが!わ、私、サンタなのにっ。サンタなのに~ぃっ!!」
彼女は焦りながら荷物をかき集めたが、袋の中に戻すことができたのは3つだけだった。後はすべてが消えてしまい、白い袋はぺしゃんこになっている。
サンタ服の女の人は、あぁ、と重苦しいため息をついて顔を覆うと、雪の路上にぺたりと座り込んだまま、しくしくとしゃくりあげた。
最初のコメントを投稿しよう!