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16才の充輝よりもどう見ても年上で、女子大生くらいに見えるのに、仕草は妙に子供っぽい。顔を隠す手のすぐ横に泣きぼくろがあるのが見えた。
『サンタさん?サンタクロース?ま、まさか?12月に入ったばっかりだぞ。でもお姉さんトナカイさんが曳くソリに乗ってするするって降りてきたよな。プレゼントも袋から出ると同時に消えてしまったぞっ。て、手品?イリュージョン?』
手品だろうがなんだろうが、女の人が泣いていることには変わりない。しかも原因を作ったのは充輝なのだ。たとえ彼女が自転車の前に飛び出してきたとしても、彼女を轢きかけたことには違いなかった。充輝は腰をさすりながら立ち上がる。幸い、どこも怪我してないようだ。そして、恐る恐る声をかけた。
「あ、あのう、お姉さん?そ、そのー大丈夫ですか?怪我でも…」
「リサ、研修は失敗だ。プレゼントをぶちまけるなんて最低だ。最終テストを待つまでもなく失格だな」
辛辣な口調を裏切る少女めいた可愛い声が突如として響いた。
「わっ、な、なんだぁっ。これはっ!!」
充輝はびっくりして飛びさすった。
トナカイ?の着ぐるみをすっぽりかぶった、小学校一年生くらいの女の子だった。頭頂部から生えた木の枝のような二本の長い角が、彼女の身長をより小さく見せているようだった。
どこから湧いてきたのかと思うほど唐突に、雪の降るくらい路上にポツンと立っている。首から提げた大きな鈴が光っていて、女児の可愛らしい容姿を引き立てていた。背中に背負った真っ赤なランドセルが妙に大きく見える。
少女は充輝の慌てようを見てフッと笑った。首の下についている赤い鈴が発光しながら涼やかな音をたてる。
「貴様は私の姿が見えるのか?リサの姿も見えているらしいな。くくっ。変わった少年もおったものよの。純粋なのか、子供なのか、はたまたバカなのか…あるいはその全部なのかもしれぬのぅ」
かなり失礼なことを言われている気がするが、充輝は怒りだす余裕はなかった。事態の思わぬ成り行きに唖然とするばかりだ。
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