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「シカさん。も、もう一度チャンスをくださいっ!!」
サンタ娘は鹿?トナカイ?少女にすがりつくようにして頼む。頭が痛くなるような光景だ。
『なんなんだ。これはいったい?僕は夢を見ているのか?』
トナカイは空を仰いでから、自分に抱きついて泣きじゃくるサンタクロースに対していった。
「ホ、天門が閉じてしまったな。何と気の早い。次の開錠はクリスマスイヴじゃな」
「えっ、そ、そんなぁっ!!わ、私、イヴまでどうやって過ごせばいいんですかっ!?に、人間界で私一人きりでっ」
「全部のプレゼントが袋から出て一刻後に門が閉じると研修の前に説明したであろうが」
サンタ服の女の人は泣き濡れた顔を上げると、オロオロと袋の中に手を入れた。
「そ、そうだわっ。プレゼントが3つ残ってるのっ!!こ、これを使えば天界に」
トナカイ少女はひづめ模様がプリントされたミトンに包まれた手を伸ばし、サンタクロースの手首を押さえる。
「待て。それは人間に配るプレゼントだぞ。サンタが自分に使うなど言語道断。それにそれは研修用のダミー品だ。効果のほどは正規の何十分の一程度といったところか」
トナカイ少女は、びっくりして立ち尽くしている充輝に向かって手袋を指し示した。
「そこの少年」
「ぼ、僕ですか?」
「そうだ。そなたに頼みがある」
『さっきまで貴様呼ばわりだったくせにそなたかよ』
充輝は警戒してジリジリと後ずさった。これが本物のサンタとトナカイなのか、あるいは奇術師の一団なのかはわからないが、ロクなことではないとピンときたのだ。
「願いを一つ言ってくれないか?」
「………は?」
『悪魔の願い的なやつか?命を取る代わりに願いを叶えてやるって話、よく聞くよな……』
逃げたそうに周囲を見回す充輝に、トナカイはなんと頭の悪い人間なのだ、とばかりにため息をついて首を振った。頭頂部から生える布製であろう角がブンブンと揺れる。
どこから見ても小学生の可愛らしい女の子がそういう仕草をすると、まるで悪い冗談のようだ。トナカイの着ぐるみのフードの下で、おかっぱに切りそろえた黒髪が揺れていた。
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