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ふぁ~すとプレゼント☆ハプン
「きゃー、助けてっ。シカさぁーん。充輝くーん!いやっ、ど、どうしようっ」
女の人の悲鳴が、充輝の穏やかなまどろみを破った。
学校と部活の練習、今までに増した大変に家事のせいで、夢も見ず熟睡するのこところの充輝の常だった。ぐっすりと眠り込んでいたので、覚醒してもいったい何が起こっているのかわからない。
男子高校生の部屋にしてはキチンと片付けている彼の勉強部屋に、うっすらと白いもやが立ちこめている。
『…ん?なんだ、この匂い?』
ゴムが焦げる匂いにチーズの香ばしい匂いが混ざり合い、悪臭に変わっている。部屋に漂う白っぽい煙も異常事態が発生したことを示していた。
☆
この何も出来ないくせにえらそうなサンタ服の女の人は、充輝の姉ではもちろんない。雪の日に自転車でぶつかりそうになった見習いサンタのリサだ。
シカさんにお願いを口にしろ、と迫られた充輝が言ったお願いのうちの一つ目は、「家事をしてくれる家族が欲しい」だった。
フムフムとうなずきながら聞いたリサは、嬉しそうに言ってのけた。
「あらっ、簡単だわっ。私が君のお姉さんになって家事をしてあげたらいいんじゃないっ!?」
リサはぺしゃんこになった白い袋に手を入れて、小さな四角い箱を取り出した。カラフルな包装紙に包まれているそれを、大事そうに手のひらに乗せて差し出す。
「はいどうぞ。少し早いけど、クリスマスプレゼントよ。私が開けてあげるわね。私が君のお姉さんになりますように」
リサの細い指が金色のリボンをほどいた。フタが内側からフワッと開き、中から金色の煙がかすかに出た。錯覚だと言われればそうなのかなとおもってしまうような、かすかな金色のきらめき。オーロラのように輝くそれは、リサの上に降り注ぎ、彼女の周囲を取り巻いてキラキラと輝いた。箱とリボンも、すぐに空気に溶けて消えてしまう。
だが、何も起こらない。浦島太郎のように急に老け込んだり、厚着のサンタ娘が水着のセクシーお姉さんに変化してしまうこともない。
リサは、結果に満足しているようで、ウンウンとうなずきながらニコニコしている。
『なんだよ。これで終わりなのか?』
「えーと、その…」
「一緒に帰ろ。私は君のお姉さんなんだからね」
リサは、充輝の背中をポンと叩いた。そして、充輝の瞳を見上げながら、ニコニコと笑う。泣きぼくろが揺れて、なんとも無邪気な雰囲気だ。
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