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『まぁ、いいか。どうせ、僕、ひとりだし。この人も、寝るところもないわけだし。姉どうこうは別にして、家事をしてもらえたら楽だよな』
自転車を押し、見習いサンタと肩を並べてマンションに帰る。16歳の少年には、20歳ぐらいのお姉さんと一緒に歩くのは、照れくさくて晴れがましい出来事だった。寒い夜で、雪がシンシンと落ちてきて、世の中で2人しかいないような気分になる。
リサの甘い髪の匂いが鼻孔をかすめ、不思議にロマンチックな夜だった。
☆
「すっごくおいしい。充輝くんってやっぱり料理が上手ねー」
リサは、ピザトーストをおいしそうにパクついた。ピンク色の唇が、ピザソースで汚れても、少しも気にせず子供みたいにトーストを食べていく。
「コーヒーおかわり」
リサは、当然、という感じで、カップを充輝に向けて差し出した。充輝はハイハイとつぶやきながら、ドリップメーカーのコーヒーをカップに注ぐ。香ばしい香りが立ち昇る。
「姉さんって、僕の家に住み込んで家事してくれるはずだったんですよね?」
「だって、料理って難しいんだもの。冷凍ピザで小火騒ぎになるなんて…充輝くんの方がうまいもん」
「そりゃ、僕、ずっと家事をしてきたから」
彼は一人っ子だ。母は充輝がものごごろつく前に病気で鬼籍に入り、企業戦士の父親は海外出張と単身赴任を繰り返している。
必要に迫られて家事をするうち、料理、洗濯、掃除といった生活をするうえで必要なことは一通り身についたが、広いマンションに1人ですむのは寂しかった。
出来ると言っても、料理は好きだが、掃除洗濯は面倒くさい。部活の練習で疲れきって帰ってきて、洗濯物を畳まなくてはならないときはげっそりする。
リサは、そうした面倒の部分を請け負ってくれるはずだった。
だが、彼女は、料理はもちろん、家事全般まったくできなかった。充輝がひとつひとつ教えたので、充輝のマンションに転がり込んできて1週間が経過した今では、掃除や洗濯はそれなりにできるようになっている。
だが、彼女はいくら充輝が説明しても、料理は壊滅的にヘタクソだった。キッチンっ一生懸命何かをしてると思ったら、とんでもないことをしでかしてしまう。
妙齢な女性と一緒に暮らすと聞いてドキドキしていたのだが、リサは頼りないだけではなく、態度も言葉遣いも子供っぽくて、色っぽい雰囲気はまったくない。
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