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「実はね、昨日のお昼に『かなえさん』にお願い事してきちゃったんだぁ」
「へ、へぇ……何をお願いしたんだい?」
「あのね、あのね、すっごい可愛い服があってぇ、それが買ってもらえますようにって」
「こら美織。そんな事、パパにお願いしちゃ駄目でしょう」
そう言って美織を叱ったのは、台所で洗い物をしていた妻だ。
しかし、美織は口をツンと尖らせると、
「パパにはお願いしてないもん。『かなえさん』にお願いしたんだもん」
と言い返した。
すると妻が、
「屁理屈を言うんじゃないの!」
と声を荒らげたので、透かさず俺は「まぁまぁ」と言って、二人の間に割って入った。
「じゃあ、こうしよう。今からママのお手伝いをちゃんとするなら、明日その洋服を買いに出掛けようじゃないか」
「えっ、本当っ!? やった、やった!!」
その提案に、美織は飛び跳ねて喜んだ。
だが、妻は不満そうだ。
「あなたは美織に甘いのね……」
「美織だけじゃないさ。君だって、毎日家事で忙しいだろうからね。明日はせっかくの日曜日だ。ゆっくり外で食事でもしよう」
俺がそう言うと、妻は照れ臭そうに頬を赤らめ、
「うふふ。ありがとう、智也」
と、俺の耳元で甘く囁いた。
「愛してるよ、美優……」
願いを叶えるには、相応の代価が必要。
確かにその通りだ。
忘れられない恐怖の体験に、悪夢。それと……。
代償は高くついたが、俺は……幸せを手に入れた。
終
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