17人が本棚に入れています
本棚に追加
-百葉箱のかなえさん-
どこの学校にも必ずある、不思議な噂。『七不思議』と呼ばれる他愛も無い話。
そういった話には、子供の心に取り憑き、魅了してしまう魔力のようなものが宿っている。
俺が通っていたJ小学校にも、そういう奇妙な噂があった。
それが──『百葉箱のかなえさん』だ。
“校庭の隅にある百葉箱にお供え物をすると、『かなえさん』がどんな願い事でも必ず叶えてくれる”──。
誰が言い出したのか、この学校にはそんな噂がずっと昔から存在していて、いつだって子供達の話題の中心にあった。
特に一部の女子達の間では、片想いの相手とも両想いになれるらしい、と恋愛成就の御利益を謳う神様の様に崇められ、休み時間になると、お供え物をしに行く生徒が列を成すほどだった。
そんな『かなえさん』の儀式を行おうと言い出したのは、幼馴染みの健からだ。
時刻は午前二時四十三分。
息を殺して家を抜け出し、夜の学校へと忍び込んだ俺達は、暗闇によって輪郭が隠された、真夜中の校庭を眺めていた。
そこには独特な雰囲気を持つ、普段では決して立ち入る事の出来ない、不思議な世界が広がっていた。
タブーを犯す事に、罪悪感は無い。寧ろ、心は躍りだしそうなほどに、ワクワクしている。
眠気が無いのは、その所為だろうか?
普段ならとっくに夢の中にいる時間帯だが、興奮で逆に目は冴え、感覚は鋭く尖っていく。
大きく息を吸い込むと、夏の名残を孕んだ夜陰に黒く染められた空気が、肺を暗闇で満たし、溶かしていくような気がした。
最初のコメントを投稿しよう!