-百葉箱のかなえさん-

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「じゃあ行こうぜ」  余程楽しみだったのか、高揚する気分を恥じらいもせずに垂れ流す健は、興奮した様子で俺にそう言うと、百葉箱を目指し、我先にと一歩を踏み出す。  それから少し遅れて、俺も後に続いた。  百葉箱は校庭の片隅、藪の中にひっそりと佇む。  校庭を突っ切り、その百葉箱まで辿り着くと、まず目に付いたのは、足元に置かれたお供え物の数々だった。  未開封のお菓子や、ぬいぐるみ。中には女物の下着まである。  これらは間違いなく、昼間生徒達が置いていった物ではない。生徒達が供えていった物は、放課後の掃除の時間に、全て片付けられてしまうからだ。  現に、健が掴み上げたブラジャーは、小学生が付けるにしては、デザインもサイズも些か刺激的である。  どうやら恋に飢えた連中というのは、俺が想像している以上にウヨウヨしているらしい。  七不思議の魔力に魅入られるのは、決して子供だけではないようだが、こんな噂話にまで縋り付かなければいけない程、人は愛に枯渇しているのかと思うと、何とも遣り切れなくなる。  そんな事を考えていたら、 「智也は願い事、書いてきたのか?」 と、不意に健が尋ねてきた。  俺は「勿論」と言って、願い事を書いた紙を、ズボンのポケットから引っ張り出した。  
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