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ようやく自分の番になったと、弾む様に前に進み出た健は、一連の流れを踏襲するように繰り返していく。
そして最後に、
「おいでませ、かなえさん……」
と、その場に屈み込んで手を合わせた。
一分か、二分か……。三回では済まないほど、健は熱心に願い事をし、それからやっとお供え物を百葉箱の足元に置く。
どんな物を供えたのかと覗き込んでみると、それはスーパーで買ってきた、すき焼き用のスライス肉で、白いトレイを包むラップには、値引きシールを剥がした跡が、はっきりと確認出来た。
願いを叶えて貰うには、相応の代価を支払わなければならない、という事だろうか?
しかし、それが『すき焼き』というのは、些か疑問に感じてしまうところだが、健はそんな事など気にも留めない様子で、
「なぁ、智也は何をお願いしたんだ?」
と、藪から棒に聞いてきた。
そのいきなりの不躾な質問に、どう答えようかと俺は小首を傾げる。
だが、健は俺の回答を待たず、まるで独白するように、一方的に自分の事を話し始めた。
「実は俺……美優に告白しようかと思って……」
その名前に、俺は驚く。
美優は同じクラスの女子で、俺と健との幼稚園からの幼馴染みでもあった。
昔は大の仲良しで、よく一緒に遊びもしたが、小学校に入り、互いを異性として意識し始める年齢になると、三人でいる時間も次第に無くなっていき、今では挨拶を交わす程度の仲になってしまっていた。
そんな相手に、告白するだと?
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