-百葉箱のかなえさん-

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「智也……聞こえた、よな?」 「あ、あぁ……聞こえた」  不安と困惑を共有するように、俺達は言葉を交わし、もう一度辺りに注意を配る。  だが、やはり俺達以外の人の気配はしなかった。  まさか、あれが……いま聞こえたあの声が『かなえさん』だったのだろうか……?  刹那、健の甲高い悲鳴が上がった。 「た、助けて、智也ぁ!!」 「け、健っ!?」  直ぐ様身を翻して健を見遣れば、どういう訳か地べたに這い蹲り、爪を突き立てて必死に足掻いている。  ──な、何だ?!  健は何をしている!? 何が起きている?! 「た、助けてっ!!」  必死の形相で助けを求める健。  状況は全く把握出来なかったが、とにかく助けなければ──と俺は手を伸ばし、健の腕を掴んだ。  その時、ようやく気付く。  ズルズル、ズルズル……。  健の身体が、何かに引っ張られていく。 「健っ!!」  俺は全身に力を込め、健の身体を引っ張り返した。 「い、痛い、痛い!!」 と、思わず健が呻く。  だが、引く力を弱める事は出来なかった。  もし弱めれば、その瞬間、俺の身体ごと持っていかれてしまいそうだったからだ。 「健、健! 頑張れ、頑張れ!!」  そう声を掛けながら、足をしっかりと踏ん張り、全体重を後方にかけて抵抗する。  それに応えるように、健も手足をバタつかせ、懸命に抗ってみせた。  
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