-百葉箱のかなえさん-

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-百葉箱のかなえさん-

 どこの学校にも必ずある、不思議な噂。『七不思議』と呼ばれる他愛も無い話。  そういった話には、子供の心に取り憑き、魅了してしまう魔力のようなものが宿っている。  俺が通っていたJ小学校にも、そういう奇妙な噂があった。  それが──『百葉箱のかなえさん』だ。 “校庭の隅にある百葉箱にお供え物をすると、『かなえさん』がどんな願い事でも必ず叶えてくれる”──。  誰が言い出したのか、この学校にはそんな噂がずっと昔から存在していて、いつだって子供達の話題の中心にあった。  特に一部の女子達の間では、片想いの相手とも両想いになれるらしい、と恋愛成就の御利益を謳う神様の様に崇められ、休み時間になると、お供え物をしに行く生徒が列を成すほどだった。  そんな『かなえさん』の儀式を行おうと言い出したのは、幼馴染みの健からだ。  時刻は午前二時四十三分。  息を殺して家を抜け出し、夜の学校へと忍び込んだ俺達は、暗闇によって輪郭が隠された、真夜中の校庭を眺めていた。  そこには独特な雰囲気を持つ、普段では決して立ち入る事の出来ない、不思議な世界が広がっていた。  タブーを犯す事に、罪悪感は無い。寧ろ、心は躍りだしそうなほどに、ワクワクしている。  眠気が無いのは、その所為だろうか?  普段ならとっくに夢の中にいる時間帯だが、興奮で逆に目は冴え、感覚は鋭く尖っていく。  大きく息を吸い込むと、夏の名残を孕んだ夜陰に黒く染められた空気が、肺を暗闇で満たし、溶かしていくような気がした。  
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