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「けど──」
稔麿が続けた接続詞は茜に暗い何かを予期させた。
そしてその予感は無情にも的中を告げる。
「僕は、そろそろもとの時代に戻らないといけない」
「はは……戻る? 何言ってるの?」
嘘であって欲しいと願いながら稔麿の真剣な表情から嘘じゃないことをどことなく感じ取ってしまっている自分がいる。
「ここの二階から落ちたら戻れるでしょ、多分」
「いやそんなまさか」
稔麿は茜の手を引き、ベランダに向かう。
そして徐に洗濯鋏を取った。
「試しになんか落としてみようか」
稔麿はベランダから洗濯鋏を落とす。
その瞬間、茜は目を疑った。
洗濯鋏が跡形もなく消えたのだ。
「…………消えた」
「いつか手拭いがなくなった時あったでしょ? あれ、実は干してた時に落として消えたんだ。それで発見したの。おそらく僕の時代と平成を繋いでいるんだと思う」
「言われてみれば……」
茜は特に気にしなかったがタオルが一枚なくなっていた。
しかし茜は疑問でならない。
「なんで戻るの……?」
茜の目尻には既に涙が溜まっている。
そんな彼女の頭を赤子をあやすように撫でる。
「君の気持ちが聞けた。君に気持ちを言えた。僕は、それで満足。これ以上は望まないよ」
稔麿は酷く優しい微笑を浮かべていた。
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