「こんにちは、稔麿さん」

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  茜は納得がいかずに彼の腕を掴む。 「私も、」 「僕はこれから死にに行くの。君が来ても寂しい思いをするだけだよ」 「だって稔麿さんは生きていたら総理大臣になれるって教授が、」 「でも彼は僕が死んだから新しい時代が来たとも言ってたよね?」 「っ、」 “死にに行く“──彼は自分が死ぬことも、死ななければならないことも知っていた。 茜が教授と話したあの日からずっと知っていたというのか。 自分の死を知ることがどれほど怖いことか茜には想像できなかった。 「そうなら僕は戻らなきゃいけない」 「でももう一ヶ月も経ってるし向こうが六月五日だとは……」 「いや、六月五日で多分間違いないよ、それも池田屋事件の真っ最中。おかしいと思わない? 僕はこうしてこの時代に生きているのに教授が言っていたように僕は死んだことになっている。僕がもとの時代で死ぬのは変えられないんだよ」 「死ぬことが怖くないの?」 まるで既に死と向き合い、受け入れている稔麿に茜はたまらずそう問うた。 稔麿は穏やかな、安らかな笑みを浮かべて迷うことなく言い切った。 「君がいる現在(いま)が幸せなら僕は死なんて厭わないよ」  
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