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あの後、稔麿は茜に優しい口付けを落とすと颯爽とベランダから飛び降り、そして消えた。
涙が枯れるほどに泣いて泣いて泣いた。
もう会うことも話すことも叶わない。
稔麿から便りが届いたのは彼去ってから一週間後のことだった。
気持ちが良いくらいに晴れ渡った日の昼下がり、洗濯物を干していた際、ふと綺麗に折り畳まれた紙が落ちていることに気付いた茜は何とはなしにそれを取り上げ、よく知る名を目にしたのだ。
──吉田稔麿。
紙には愛する彼の名が書かれている。
迷わず広げる。
「稔麿さんからの手紙……」
それは短いものの、紛れもなく彼からの手紙だった。
一行、また一行と読むに連れ、涙が後から後から頬を伝う。
そこには紛れもなく、彼が息づいていた。
確かに彼が息づいていた。
「こんにちは、稔麿さん」
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