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池田屋と長州藩邸はさほど離れてはいない。
稔麿が全力疾走すれば一分かからずとも着いた。
「桂さん!」
門を叩くとすぐに呼ばれた桂という男が顔を出す。
擦り傷、痣こそあれど特に斬られたような傷もなく、帰還した稔麿に桂は心底安堵したように顔を綻ばせる。
「稔麿、生きてたのか! 早く中に」
桂に促されるまま、中に入った稔麿は一心不乱に部屋を目指した。
適当な部屋へ入ると文机に向かう。
筆を取り、何やら紙にしたため始めた。
「稔麿? 何を……」
怪訝そうに見つめている桂を後目に数分と経たないうちに稔麿は筆を置くとしたためた文を丁寧に折る。
そして、桂の有無を言わせず、彼に文を託した。
「後生だからこれを騒動が終わったら池田屋の二階から投げ捨ててほしい」
「オイ、稔麿!」
「槍、借りていくよ」
引き止める間もないうちに稔麿は藩邸に置いてあった槍を引ったくると長州藩邸を飛び出した。
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