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それは稔麿が池田屋に戻る途中のことだった。
道の向こうに提灯の灯りが見える。
目を凝らすとその形(なり)と十数人という人数からおそらく池田屋に応援に向かう藩兵であることがわかった。
藩兵たちを突っ切らねば、池田屋へ到着することは叶わない。
稔麿はよく手に馴染んだ槍を持ち直すと藩兵目掛けて駆け出した。
それとほぼ同時に彼に気付いた藩兵は声をあげる。
「オイ、あれ、池田屋から逃げ出した不逞浪士じゃないか!?」
「相手は一人だ! かかれぇ、かかれぇっ!!」
すらり、と刀を抜いた藩兵らに稔麿は好戦的な笑みを浮かべた。
「随分と見くびられたものだね」
敵も一瞬見とれるほどの迅速で無駄のない動きで時に相手の喉元を、時に相手の心の臓を突いた。
血飛沫が舞う。
断末魔が轟く。
そんな状況の中でも稔麿の脳裏には茜のことがちらついた。
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