「こんにちは、お侍さん」

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  茜が驚愕するのも無理はない。 着物に身を包み、頬にべったりと返り血を付着させた秀麗な容姿をした青年が日本刀を振り上げて素晴らしい笑顔で微笑んでいるではないか。 (殺 さ れ る) 体の震えが止まらない。 (おっかしいなぁー、なんか涙出てきた……) 本当に怖いと涙出るんだなどと妙に納得していると青年が何やら伝えたがっている様子。 口を大きく開閉している。 なるほど口パクで何かを言わんとしているようだ。 茜はとりあえず青年の口の動きに注視してみる。 開 け な い と 殺 す よ ? いやいやいやいやそんな微笑を浮かべてなんて物騒なこと言ってるの。 (どうせ開けなくても殺される運命なら、) ひとまず開けてあげることにした。 この際、幽霊でも不審者でも頭が残念な人でもいいや……いや、やっぱり良くない。 それでも八月のこの暑い中、いつまでも外に放り出しておくのは可哀想な気がした。 そして、開ける。 これが茜の運命を大きく狂わせることになろうとは彼女自身もこの時、知る由もなかった。  
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