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草履を脱いで茜の家に上がるや否や、青年は彼女の首筋に容赦なく刀を突き付ける。
「僕が三つ数えるうちにここがどこか言わないと君の首と胴が、」
「私の家です!」
「喧嘩売ってる?」
「滅相もないですううう!!」
ぶんぶんと首を振り、ガタガタと震える茜の怯える様に彼女は無害と認識したか、青年はやがて刀を鞘に収める。
一息吐くと面倒臭そうに頭を掻いた。
おどおどと青年の顔を窺いながら茜は訊く。
「あの、私からも質問してもいいですか?」
「んー、まぁいいよ」
「あなたは誰なんですか?」
「僕? 僕は稔麿、吉田稔麿(よしだとしまろ)。君は?」
「私は松本茜です」
青年の名は吉田稔麿と言うらしい。
茜はこの時、改めて稔麿の顔をまじまじと見つめた。
すらっと伸びた長身、長い手足。
漆黒の艶やかな長髪は頭の高い位置で一つに纏(まと)められている。
透き通るような白い肌は陶器のように美しい。
柳眉とは対照的に穏やかな目元、すっと通った鼻筋、一文字に結ばれた唇……全体的に中性的な容姿をしていたが、まるで彫刻家が彫ったような完成された麗しさがあった。
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