第二章

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 小さい子独特の、まるでミルクのような甘い匂いに短く切られた珊瑚色の髪。クリクリとした大きなコバルトブルーの瞳。  確かに、これはコハルちゃんが勝手に入ってしまった事なのだから自業自得と言ってしまえばそれで終了だ。  だが、いくらそうだとしてもコハルちゃんにとってはあまりにも酷な話じゃないか?  まだ『嬉しい事』や『悲しい事』を、まったくと言っていいほど体験していないこんな子どもを戦場に放り込むなんて……っ! 「いっ! お兄ちゃん痛い……っ!」 「っ! わ、ワリィ……」  いつの間にか撫でるのを止めて頭を強く掴んでいたらしい、今にも泣き出しそうな声で俺の手を両手で押さえたコハルちゃんに、俺は慌てて手を離して謝罪の言葉を述べる。  そりゃあ、無意識に力も入っちまうさ。俺にはこの子を向こうの世界に返す事すらできないんだからな。  せいぜいできて、このやり場のない怒りを諸悪の根源である戦場戦にぶつけるくらいだ。 (この子にだけは、あまり辛い思いをさせないようにしよう……)  俺は自分の頭をさすっているコハルちゃんのチャームポイントであろう、てっぺんで結ばれた黄色いリボンが揺れる様を見ながら決意を固める。  すると、もう一人の眠り姫もモゾモゾと動き始めた。 「お、目ぇ覚めたか?」 「あ、はい……えっと……」 「戦國戦兎。俺の名前だ」 「あっ、戦場剣……です。あのっ、ありがとうございました……」  剣は俺から少し距離を取ると、土下座せんとばかりに深々と頭を下げる。 「おう。あと、さっき焔にも言ったんだが、あまりその名字は口に出さないほうがいいぞ」 「あっ……ごめんなさい……」 「いや、俺に謝られても……」 「あぅ、ごめんなさい……」  起きて早々、ずっとペコペを下げ続ける剣。からかいがいのありそうな娘だ。  ……しっかし、さっきまでの剣はいったいなんだったんだ?  今は初めて会った時の剣みたいだが―― 「……なぁ、剣」  俺は一つ勇気を振り絞り、前々から気になっていた疑問を口にする。 「さっきのお前は、いったいなんなんだ?」
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