第二章

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「そこにいる焔だってそうだ! コイツもテメーからしたらタダのクソ田舎にいる女子中学生くれーにしか見えねーだろうけどなぁ! コイツだって昔、アタシの目の前で男達に――」 「剣! もうやめて!」  意識が朦朧としていく中、焔の悲痛な叫び声が部室中にこだまする。  その瞬間、剣の攻撃はまるで嵐が去っていったかのようにピタリと止まった。 「剣……もうやめて。國ちゃんはなにも悪い事言ってないべよ……」 「その手を離せよ焔……コイツは、アタシ達の禁句(タブー)を口にしたんだ」 「そんなの、まだ出会って間もない國ちゃんがわかるはずないべな……」  〈カリバーン〉を振りかざす剣の手首を両手で強く握りしめながら、焔は小さな涙の粒を浮かべる。  そんな焔の涙に釣られてしまったのか、今度はコハルちゃんまでもがボロボロと涙の雨を流し始めてしまった。 「うっ、うぅっ……もう喧嘩はやめようよぉ……。なんで二人とも喧嘩するのぉ……」  言いさして、コハルちゃんはペタンとアヒル座りをしたまま大声をあげて泣きだしてしまう。 「……チッ」  キンキンと耳に響くコハルちゃんの声にうんざりした顔を見せる剣は「わかったよ」と、焔の手を強引に振りほどくと、掴まれた手首をさすりながら口を開いた。 「今回はこのくらいで勘弁してやる。だがな、次にもう一度その言葉を口にした時にはテメーの頭が潰れたトマトみてーになってもアタシは知らねーからな」 「ああ、ワリィ……」  俺は殴られ過ぎて感覚のなくなってしまった頬を押さえながら、先ほどの一部始終を思い返す。  俺だって一人の人間だ。ただなんとなく言った言葉一つで剣にここまでボコボコにされるとは思ってもなかったから、正直、今メチャクチャ腹が立っている。  当たり前だ、あんな一言で殴られるとか意味がわからん。  ……だが、確かに、あんな控え目な性格をしている剣が『掟』のせいで二重人格になってしまうほど辛く、苦しい思いをしたってのも事実。  もうその時点で全然平気じゃねぇじゃん。と、今は思う。 そう考えると、ちったぁ怒りも収まってくるし、俺も軽率な発言をしたとは思うよ。
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