第二章

31/33
前へ
/136ページ
次へ
「けどよ……いくらなんでも殴り過ぎだろお前。メチャクチャ痛てぇ……」 「フンッ、テメーは人の一番言ってはいけねーモンを口にしたんだ。本当なら、今頃テメーは外にある死体の仲間入りしてたところだったっつーの。ほら、腕出せ。腕」 「……は?」 「は? じゃねーよ。傷を治してやっから、腕を出せって言ってんだよ」 「あっ、あぁ……」  これ以上ヘタな事言えば〈カリバーン〉の餌食にされかねないので、俺はそそくさと学ランの袖をまくって剣に見せる。  すると、剣は腰から小さな注射器を取り出すなり、俺の腕から浮き出る血管に向かって注射針を刺した。  チクリとする痛みの後に、顔全体から除々に痛みが引いていく感覚。  それはまるで、海水が沖まで引いていく『引き潮』を彷彿とさせた。 「よしっ、もうこれで大丈夫だろ。鏡を見てみな」  剣に言われ、俺は部室の隅にある鏡で自分の顔を見てみると……おぉ、あんなに殴られたのに傷一つ残ってねぇ。さすが回復アイテムの〈Medical Kit(メディカルキット)〉。  公式サイトでその効果はすでにリサーチ済みではあったが、まさかこれほどまでとは。 「剣、サンキューな」 「おう。――っと、次はあっちのガキか……」  クルクルと手慣れた様子で〈カリバーン〉を指で回しながら、剣は鼻をすするコハルちゃんへと近寄る。 「ヘイ、ガキ。名前は」 「うぅ……ひっく、コハル……春日コハル……」 「コハルか、ワリーな怖い思いさしちまって。もう戦兎とは仲直りしたからさ、もう泣きやんではくれねーか?」 「ぐすっ……うんっ」 「よし、いい子だ」  服の袖で涙を拭いながら頷くコハルちゃんに、剣は頭をポンポンと軽く叩いた後に優しく頭を撫でる。  この時の剣は一瞬、ほんの一瞬だけ獲物を探す狼のような鋭い目ではなく、慈愛の色が混じった優しい目をしていた。 「へぇ、そっちの剣は傍若無人なだけかと思ったけど、案外いいとこあるんだな」  あ、やべっ、思わず口に出し て言っちまった……。  思わぬ失言に、俺は慌てて口を塞いで剣の顔を見てみると……やっぱり聞こえてたか――って、あれ、なんか剣の顔がメチャクチャ赤くなってんだけど!
/136ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加