6人が本棚に入れています
本棚に追加
「けどよ……いくらなんでも殴り過ぎだろお前。メチャクチャ痛てぇ……」
「フンッ、テメーは人の一番言ってはいけねーモンを口にしたんだ。本当なら、今頃テメーは外にある死体の仲間入りしてたところだったっつーの。ほら、腕出せ。腕」
「……は?」
「は? じゃねーよ。傷を治してやっから、腕を出せって言ってんだよ」
「あっ、あぁ……」
これ以上ヘタな事言えば〈カリバーン〉の餌食にされかねないので、俺はそそくさと学ランの袖をまくって剣に見せる。
すると、剣は腰から小さな注射器を取り出すなり、俺の腕から浮き出る血管に向かって注射針を刺した。
チクリとする痛みの後に、顔全体から除々に痛みが引いていく感覚。
それはまるで、海水が沖まで引いていく『引き潮』を彷彿とさせた。
「よしっ、もうこれで大丈夫だろ。鏡を見てみな」
剣に言われ、俺は部室の隅にある鏡で自分の顔を見てみると……おぉ、あんなに殴られたのに傷一つ残ってねぇ。さすが回復アイテムの〈Medical Kit(メディカルキット)〉。
公式サイトでその効果はすでにリサーチ済みではあったが、まさかこれほどまでとは。
「剣、サンキューな」
「おう。――っと、次はあっちのガキか……」
クルクルと手慣れた様子で〈カリバーン〉を指で回しながら、剣は鼻をすするコハルちゃんへと近寄る。
「ヘイ、ガキ。名前は」
「うぅ……ひっく、コハル……春日コハル……」
「コハルか、ワリーな怖い思いさしちまって。もう戦兎とは仲直りしたからさ、もう泣きやんではくれねーか?」
「ぐすっ……うんっ」
「よし、いい子だ」
服の袖で涙を拭いながら頷くコハルちゃんに、剣は頭をポンポンと軽く叩いた後に優しく頭を撫でる。
この時の剣は一瞬、ほんの一瞬だけ獲物を探す狼のような鋭い目ではなく、慈愛の色が混じった優しい目をしていた。
「へぇ、そっちの剣は傍若無人なだけかと思ったけど、案外いいとこあるんだな」
あ、やべっ、思わず口に出し
て言っちまった……。
思わぬ失言に、俺は慌てて口を塞いで剣の顔を見てみると……やっぱり聞こえてたか――って、あれ、なんか剣の顔がメチャクチャ赤くなってんだけど!
最初のコメントを投稿しよう!