第二章

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「ア、アタシは別に好きでこんな事やってんじゃねーからな! ほ、ほら! あっちのアタシが戻ってきた時にわかだまりが残ってると困るだろ!」 「こっちの剣は、向こうの剣が大好きだもんね」 「お、おいこら焔! 余計な事言うんじゃねーよ!」 「へぇ、だからさっき俺に〈Medical(メディカル) Kit(キット)〉を使ったのか。剣に優しい自分をアピールってか?」 「なっ、テメーまで……おい戦兎! 今すぐ銃を抜け! アタシが直々にテメーを天国まで送り届けてやる!」  顔を真っ赤にしてそう叫ぶ剣が、先ほどまで俺をボコボコにしていた剣とは到底思えないほど可愛らしかったので、俺はそのギャップに笑ってしまう。  そんな俺の顔をみた剣が「ファック!」と汚い言葉を吐いてきたが、気にしない。  だって―― 「……エヘヘッ」  いつの間にか泣きやんでいたらしいコハルちゃんが、俺達のやり取りを見て笑っていたのだから。 「……フンッ、次にアタシをからかったら、その時ゃ容赦なく頭をブチ抜いてやっからなっ!」  まるで人見知りする剣のようにそっぽを向いて頬を膨らます剣であったが、やがて「フゥ……」と息を吐いて、口元を緩ませる。  いやぁ、一時はどうなる事かと思ったけど、場の空気が和んで本当によかった。  しっかし、剣がみんなに対しての『わかだまり』は解消されたはいいけど、なんか俺の心に変な『しこり』みたいなのが残ってんだよなぁ。うーん、なんだろ……―― 「――って、あーっ!」 「うわっ、なんだよいきなり大きな声出しやがって」  全員が和みムードだったのも束の間、バスケ部の部室は剣の舌打ちによって再びいつも通りの空気に戻ってしまう。  ……そうだ、今の今までバタバタしてたからスッカリ忘れてたぜ……。 「そういや俺、このゲーム始まってからまだ一個も武器買ってねぇ!」  そう、せっかく合法的に本物の銃が撃てるというのに、俺はゲームが始まってからまだ一度も銃を撃つ事はおろか、買ってすらいなかった。  まぁ始まって早々、剣を助けて介抱してからの焔とコハルちゃんの件があったからな。  だから、全然買う暇なんてなかったんだよね。実際。
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